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Timeの源流を訪ねる 2

2016.1.21 ジャン・マルク・グッグヌー
Timeを語る上で欠かすことのできない伝説のエンジニア、ジャン・マルク・グッグヌー。引退してしまった彼の未発表インタビューの2回目。過去のインタビューであり、現在の製品はさらに進化しているが、その源流を辿るアーカイブス。今回はアクティブフォークの秘密について……

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ジャン・マルク
アクティブフォークを開発するきっかけとなったのは、2000年頃ごろです。シートステーやチェーンステーを動かして快適性を向上させるフレームが登場してきたのを見て、もしTimeがやるならば、レーシングパフォーマンスに関する妥協を一切することなく、快適性を追加しなければならない、と思いました。

最初にスキーで使われていた技術をヒントにしようとしましたが、最終的には大きなビルに採用されているチューンド・マスダンパーと同じ制振機構を採用しました。このシステムは地震や強風でビルが揺れるときに、“重り”が同調して動くことで揺れを抑制します。

私たちのシステムでは、ライダーと自転車をビルに見立て、ブレード内部に“重り”を設置してフロントフォークで発生する振動を下げたのです。

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走行中を地震と見立てたわけですね。

ジャン・マルク
そうですね。最初はフレームの各所にセンサーをつけて、多くデータを集めるところからスタートしました。そして、試走できるプロトタイプにたどりつくまで、約3000におよぶデータをラボで収集しました。

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3000!

ジャン・マルク
はい。大変だったのは次のフェーズです。いよいよテストライドに移るわけですが、誰に乗ってもらうか考えないといけない。開発の精度を高めるには質の高いフィードバックが不可欠ですから、繊細な感覚と正確に表現できる優れたライダーが必要でした。と言っても、微妙な差異をきっちりと表現するのは簡単じゃない。

そこで多くのライダーに集まってもらって、偽薬テストみたいに、アクティブ機構を装着したモノと偽装した自転車を与えて、テスターの感度や表現能力の実力をテストしたのです。その後はさまざまな仕様のプロトタイプを作り、おおよそ20000㎞にもおよぶ試験走行をしました。

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テストライダーの人数は

ジャン・マルク
25人です。そのうちの2人は、モーターサイクルのテストライダーです。彼らがもたらしてくれたフィードバックは、アクティブフォークの効果をチェックするうえで、とても役立ちましたね。


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チューニングして行く上で、気をつけたことは。

ジャン・マルク
チューンド・マスダンパーは緻密な計算によって設計されます。言い換えれば、ライダーの体重やホイールの違いによって効果が変わる。なので、時間をかけて慎重にチューニングを積み重ね、多くの人に効果のあるシステムに仕上げました。

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というと。

ジャン・マルク
究極を求めれば、条件は限られている方がパフォーマンスを出しやすい。でも、最大公約数というのも大切な目標ですから、身体へのダメージが大きい50ヘルツ以下にフォーカスして設計を詰めました。この周波数帯はライダーにとって不快で、身体に悪影響及ぼします。

テストでは、ホイールをいろいろと換え、体重の重いライダーや軽いライダーで多くのテストをしました。ほかにも様々な条件下で走らせてみたんですけど、エラストマー樹脂を使うと温度によって硬度が変化して性能にも影響するといったこともわかりました

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アクティブフォークは条件にまったく左右されない

ジャン・マルク
はい、完璧なシステムです。
と応えたいのですが、厳密に言えば、最高の機能を発揮するのは気温が摂氏0〜35℃のときです。かつ、ホイールは縦剛性の高いディープリムの条件下において最高の機能を発揮します。

ただ、重要なことはいろいろなホイール、体格の異なるライダーのことも熟慮し、大きなスイートスポットが得られるように設計してあります。したがって、カタログなどに条件等は記載していません。想像してください。あなたが私の立場で、有効作動条件が極端に小さかったら市販しますか? しないでしょう。効果を感じられなければ、これまでユーザーと築き上げてきた関係を壊してしまいます。そんな取り返しのつかないリスクは負えないし、だから、開発に時間がかかったとも言えます。

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それでも、クラシックフォークを廃止しなかった理由は

ジャン・マルク
1グラムでも軽量なフレームが欲しいという人は少なくありません。そして、コストの問題もあります。スムーズな路面であっても、アクティブの意味合いはありますが、たいして距離を走らない人もいます。また、ドイツみたいに、路面がすごくいいところの状況だったら、クラシックフォークも悪くはないですよ。

当初は2回のつもりでしたが、ジャン・マルクのインタビューをあと1回、お届けします。
つづく

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