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FSAと日本のショップの往復書簡

これから書くことは、取引先であり、FSAをはじめスポーツバイクの製品を輸入しているポディウムの営業マンに、以前から尋ねてきたことだ。もしかしたら、FSAから返事が貰えるかもしれないというので、淡い期待を抱きつつ、ブログのネタになるかもしれないので備忘録として記しておこうと思う。

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僕は東京の近郊にあるバイクショップのオーナーだ。パンク修理も経理も一人で行なう小さいなショップで、今から20年ほど前に自宅を改築してはじめた。あの当時、今やポッドキャスターとして人気者のランス・アームストロングは選手として輝かしい戦績を残していて、FSAは大手メーカーの完成車に純正パーツの代わりに取り付けられている、新興メーカーだった。

早速だが、質問に移ろう。
K-Force WEの存在を知った時、「え、なんで?」というのが最初の感想だった。コンポーネントパーツはシマノ、スラムの2トップが市場をほぼ独占している。企業活動だから、目的は売り上げを上げることに違いないだろうが、新たに変速機を作るのは大きくなリスクだし、ましてやワイヤレスシステムまで作ったのをみていると、そこまでコンポーネントパーツにこだわる理由が分からない。

「いつかシマノを超えるコンポメーカーに……」と、大志を抱いているならば、ロマンチックが過ぎやしないかと思う。しかし、OEMで自転車業界のことを知り抜いているFSAである、なにか違う勝算があるのかもしれない。小さいショップにも手をこまねいている僕には想像もつかないが、どんなロードマップなのか、興味深い。

量を売るためには政治的な駆け引きもあるだろうが、ユーザーとして、新しいコンポに期待することはなにか?と考えてみると、変速スピードは速い方がいいし、贅沢を言えばスプロケットの数だって多い方がいい。

2021年は12速コンポが増えるだろうが、それはそんなに大切か。コンポの基本性能は向上しており、コモディティ化が進んだ現在、スプロケットを1枚増やしても、市場を大きく動かすゲームチェンジャーとはならない。15年前ならいざ知らず、スプロケットの数を増やすだけで新製品は売れるなんて、今は昔である。

スラム・eTap以降、ロードバイク用コンポの新作は、かなり厳しい状況にある。パワーメーターをラインナップに加えても、スプロケットを増やしても目新しさはない。ともすれば、アイデアがなくて「ギヤを増やすぐらいしか、やることがなかったのか」と思われかねない時代である。安易に思いつく未来像が、イノベーションにならないことは間違いないのだ。

K-Force WEのすべてが新しいわけではない。それでもコントロールレバーを2種類作ったのは、他にないアプローチだ。あまりメディアでは注目されていなかったが、そんなに魅力のないモノだったのだろうか。変速システムにしても、そうだ。無線と有線のアドバンテージを併せ持つアプローチはユニークだ。どうせなら前後の変速機とも無線で繋ぐ方が自然だが、あえてハイブリッドにしている理由も興味深い。

これからのロードバイクを考えたり評価する上で大切なのは、世界チャンピオンのためのメカでもなければ、ディスクブレーキが云々ではない。大切なのは、拡張性や多様性を併せ持っているか否かではないのか。どんな拡張があるのか想像もつかないけど、サードパーティを否定するためのようなモデルチェンジが、今後も続くとは思えない。

40年前、インデックスシフトが登場する以前のロードバイクは、現在よりもはるかに性能は低かったが、ブレーキレバーも変速機も多くの選択ができた。統合的に設計され、機能を発揮するコンポーネントパーツはロードバイクを大きく進化させたが、一社独占という状況を作り出してしまった。それに嫌気がさしたかのように、この数年、FSAのほかにもユニークなコンポが登場してきた。このタイミングこそ変革のチャンスであり、メーカーやメディアは声を出すべきだと思う。

だからこそ、いま、K-Force WEが誕生した背景や、FSAはどんな夢を見ているのか聞かせて貰うことはできないだろうか?

時間がかかってもいいので、なにか返信が貰えるとありがたいです。
サイクルショップK.T.より。

ENA07649のコピー


親愛なるK.T.様
私はFSAで広報を担当しているアレッサンドロと申します。プラネットポディウム編集部から、FSAに宛てたメッセージがあると連絡がきたのは、ツール・ド・フランスをやっているはずの7月でした。まずは返信が遅れたことをお詫びします。いただいた質問は、私たちにとってとても興味深いもので、みなさんにも知っていただきたいことが多かったので、私信をネットの記事として返信することに躊躇いを感じますが、わたしたち考えていることや、考えてきたことをご紹介したいと思います。

K.T.様はK-force WEに触れたでしょうか? まだ始まったばかりビジネスなので、メディアの記事を読んで存在を知っていたとしても、実際に触ったことがある人は多くないと思います。ですから、K-force WEに興味を持っていただけたことを、素直に嬉しく思います。なぜなら、コンポーネントパーツのビジネスに参入するのは、FSAにとって長年の課題でした。

わたしたちは自転車業界に新しい風を吹かせるべく2001年に誕生しました。前身となる会社は92年にカリフォルニア州でスタートし、段階的に新しいカテゴリの製品を導入してきました。現在はヘッドパーツを筆頭に、ボトムブラケット、チェーンホイール、ブレーキを生産し、姉妹ブランドのVisionがホイールを展開しています。

個々に機能するパーツを生産してきたので、グループとして機能するコンポーネントパーツは、FSAのラインアップに欠けていた最後の製品であり、ブランドにとって新たな大きなチャレンジでもあります。

K-force WEをリリースしたのは、夢を叶えるためではなく、純粋に市場シェアを獲得するためです。あなたのように経験豊富なサイクリストは現状に慣れてしまっているようですが、少数のブランドによって市場が独占されている状態は健全と言えません。多くの競争の機会が必要なのは、他の業種を見れば明らかです。ならば、自転車界はそこに改善の余地がある、とわたしたちは考えています。

しかし、簡単にコンポーネントパーツは作れません。先達してきたメーカーがいかに優秀で、どのような努力をしてきたのか……わたしたちは彼らの最大の理解者になれるほど研究しました。

あなたが仰る通り、スプロケットを1枚増やすだけでは、革新的なコンポーネントパーツだとは言えません。そして、昔と比べれば実力が拮抗しているのも、間違いないのでしょう。それでも、ドライブトレインには、さらなる進化の余地があります。素早く正確な変速性能と幅広いギアの選択肢が必要最低条件でしょうが、わたしたちは基礎的な研究を進めるとともに、機械と人間との関係性についても考えてみました。

人間工学のことをエルゴノミクス(Ergonomics)と言います。これはギリシア語の労働(ergon)と法則(nomos)を語源としており、人間にとって使いやすい環境や機械や道具を設計&開発することを目的とした学問です。体格は千差万別ですから、手が大きい人もいれば、小さい人もいます。最大公約数を探すのも大切なことですが、2つの選択肢があれば、もっと多くの人に満足してもらえます。そのことに先達たちも気がついていたはずです。それでも登場しなかったのは、競争がなかったからもしれません。そして、わたしたちのチャンスになりました。ほかにも耐久性、コネクティビティの側面にも注意を向けました。

イノベーションとは、常に新しさ付け加え続けることです。たとえばwifiテクノロジーは、自転車ビジネスにもいくつかの利点をもたらしました。その代表的な製品はパワーメーターでしょう。わたしたちのパワーボックスは、ライバルも同様の製品をラインナップしているのにもかかわらず、保守的なプロ選手からも高い評価を得ています。

どうせメーカーは自画自賛しかない……と思われるかもしれませんが、そうではないのです。わたしたちは世界中の自転車メーカーに製品を納めてきており、取引先の多さにかけては世界でも指折りだと自負しています。それ故、各パーツに要求される性能、これからビジョンなど多くの声が集まります。

今なら、エアロダイナミクス、ディスクブレーキ、ケーブルのインテグレーション……といった項目は、どれも激しい競争が行なわれています。完成車メーカーはライバルと差別化を図るため、いろいろなアイデアを考えると同時に、ときに解決方法を求めてきます。そうした要求に応えてきたのが、FSAが成長してきた理由なのです。

K-force WEのアイコンには2つのアイコンがあります。1つは2種類のコントロールレバーであり、もう1つがハイブリッド・ワイヤレスシステムです。後者は組み立てを簡単にし、シンプルなスタイリングと軽量化にも役立ちます。同時に、バッテリー寿命を長くすることにも成功しました。なので、パフォーマンスとメンテナンスの両方にメリットをもたらすと考えています。

プロ選手と製品の関わりについて、あなたは厳しい意見をお持ちのようですが、プロ選手と同じ製品を使うことに喜びを感じる人も多くいます。ご存じだとは思いますが、昨年のブエルタ・エスパーニャの第5ステージでアンヘル・マドラソ(ブルゴスBH)選手とともに、K-force WEはステージ優勝を飾りました。プロチームによるプロモーションは、製品を知らしめる方法の1つであり、信頼性を証明するための方法として有効です。ただ、プロチームという方法しかないわけではありません。現在、市場のオファーは非常に広く、顧客はさまざまなソリューションを選択できます。

FSAの目標はコンポーネントパーツのビジネスでもよく知られているブランドになることです。恐らく、このプロセスには時間がかかります。幸い、コアとなるビジネスが安定しているので、時間のプレッシャーを感じることなく、K-force WEは目標に向かって進むことができます。製品を革新し、将来手に入る新しいテクノロジーを活用できるよう、私たちはすでにAIに関わるパートナーと協力しています。複数の外部デバイスで、K-FORCE WEとPOWERBOXを連動させるように考えています。

少々、長くなりました。ご質問に十分に応えられたか分かりませんが、ご意見は今後の製品開発にフィードバックさせていただきます。日本でお目にかかれる日が来るのを楽しみにしております。 
広報アレッサンドロより。


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ポディウム公式アカウントです。ヨーロッパのロードバイクシーンがナニを考え、どのように問題に取り組んでいるのか……をお伝えします。http://www.podium.co.jp/