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Timeの源流を訪ねる 3

2016.1.21 ジャン・マルク・グッグヌー

今回はジャン・マルクが2016年に考えていた、少し前に考えた未来の話。左右非対称強度フレームや、インテグラルシートポスト、シートチューブをしならせて快適性を向上させるなど、彼が現在のカーボンフレームに与えた影響は大きい。

現在のデファクトスタンダードになっているディスクブレーキやエアロロードの普及も、彼は4年前に言い当てている。また、当時はオフレコだった部分もつまびらかに紹介します。

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ーー
すこし話題を変えて、
未来の話を聞きたいのですが、
エアロブームについて、どう考えますか。

ジャン・マルク
空気抵抗を小さくする試みは、
目的によっては必然です。
私たちのラインナップにも
スカイロン(サイロン)があります。
少しでも速く走ろうと思えば、
空気抵抗に着目するのは自然なことです。

ーー
今後もエアロバイクは増えていきますか。

ジャン・マルク
増えると思いますよ。
空気抵抗をチェックする装置は進化し、
使いやすくなっているので、
自転車に影響するでしょう。

ーー
ディスクブレーキは

ジャン・マルク
消費者やショップが完全に受け入れるには、
多少時間がかかるかもしれません。
でも、それは短期的な話です。

ーー
リムブレーキはなくなる。

ジャン・マルク
安全性から考えて、
ディスクブレーキが主流になるでしょう。
同時に、カーボンホイールが一般的になる。

ーー
セットで考えるべきですか。

ジャン・マルク
ディスクブレーキとカーボンホイールの
メリットは相乗効果があるので、
理解が進めば多くの人に受け入れられるでしょう。

ーー
ディスクブレーキ化によって、
エンド幅が拡がったり、
チェーンステー長が長くなると言われていますが、
ジオメトリーにも変化がありますか。

ジャン・マルク
Timeのディスクブレーキ用モデルの
チェーンステー長は、
テストした結果に基づいています。
反応性の高さなど、
現在はこれで完璧だと考えてます。

ーー
では、今後も変更なし。

ジャン・マルク
いいえ、やがてチェーンステイを長くするタイミングは来ると考えています。

ーー
いつごろですか。

ジャン・マルク
具体的な時期はわかりません。
ただ、部品メーカーによっては
チェーンステー長が410㎜以上を推奨しています。

ーー
そうですね。

ジャン・マルク
部品メーカーの推奨を無視はしませんが、
Timeとして長所短所を考え、ジオメトリーを決めます。
私たちの求める理想に近づけるため、
素材を選び、技術も進化させる。
常にベストバランスを探しているので、
いつかジオメトリーは変わるでしょうね。

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ーー
部品の話になりますが、
電動&電子パーツは
自転車の未来像を変えますか。

ジャン・マルク
すでに大きな影響を与えていますよ。
ただ、現段階では限界もあります。

ーー
それはどういったことでしょう。

ジャン・マルク
最大の弱点はバッテリーです。
基本的に重いし、
軽くしようとすると容量が足らない。

ーー
そうですね。

ジャン・マルク
私が注目しているのは電動部品ではなく、
ピエゾアクチュエータ(圧電素子)を
フレームに用いることです。

ーー
それは、どのような方法で。

ジャン・マルク
上手く活用できれば、新しい方法で、
悪い振動を除去できると考えています。
秘密ですけど。

ーー
秘密と言う割りには、
前から圧力素子の話はしてますよね。

ジャン・マルク
最初に注目したのは、かなり前になります。
なので、今後、どうなるかは分からないです。

ーー
Timeの話から逸れるんですけど、
この先、自転車はどんな進化を遂げると思いますか。

ジャン・マルク
ここまでの進化を振り返ってみると、
いろいろな技術が進化しても、
ジオメトリーはあまり変わっていないんですよ。
それはロードバイクの根本は競技の道具で、
UCIルールが変わらなかったからでしょうね。

ーー
確かにルールが変わると、機材も対応しますもんね。

ジャン・マルク
もしUCIルールがなかったら、
フレーム形状やシートポスト、ハンドル、
ホイールは大きく進化したかもしれません。
でも、30年前とジオメトリーは大差ない。
乗り心地は違いますけどね。

ーー
それは進化といえないですか。

ジャン・マルク
イエスかノーかで言ったら、イエスです。
素材がカーボンになって、
フレームは非常に繊細な加工をすることが可能になりました。
昔はチューブを溶接しただけで、
エンジニアリングと呼べるようなものはなかったですからね。

ーー
カーボンのほうが繊細

ジャン・マルク
そうですね。モノブロック構造になって、
より高度できめ細やかな設計と、
製造ができるようになりました。
でも、依然、自転車には改善の余地がいっぱいありますね。

ーー
その余地にRTM(レジン・トランスファー・モールディング)工法以外の
生産方法を選択する可能性も含まれますか?

ジャン・マルク
私たちが採用しているRTMは
フレームを作るうえで、
最高の方法だと確信しています。
用途によって素材を使い分けるように、
理想の生産方法も製品によって変わります。

ーー
ケースバイケースだと。

ジャン・マルク
どんな製品もRTMで
作られるべきだと言うつもりはありません。
違う技術が向いている製品もあります。
ただ、複雑な構造をしている場合、
やはりRTM優位性に揺るぎはないですね。

ーー
今さらですけど……
RTMの最大のメリットって、
なんですか。

ジャン・マルク
カーボン繊維は方向性のある繊維なので、
配置する位置や角度が重要なんです。
Timeは自社工場で繊維を編んでいるので、
理想的な位置にカーボンを配置できます。
これは他の工法には真似のできない
アドバンテージです。

ーー
RTM自体も進化していますか。

ジャン・マルク
技術的にも、フレーム製造における応用に
関しても進化してきました。
繊維と樹脂の配合比率は非常に重要ですが、
最適解に近いものを見つけられました。

ーー
樹脂が少なくなって、軽くなった。

ジャン・マルク
ええ。でも、忘れてならないのは、
カーボン繊維を正確に配置し、
加工することがもっとも大切なことです。
また、インナーコアを採用することで、
モノブロック構造に進化しました。

ーー
繊維と樹脂の比率は秘密ですか。

ジャン・マルク
ははは、残念ながら。

ーー
最近の製品で、
進化で話せることはないですか。

ジャン・マルク
RTMの話からずれてしまいますが、
エンド部は高強度のCMTを採用しました。
カーボン化を進めることで、
どんどん金属部品がなくなっています。
スカイロンはディレイラーハンガー以外、
すべてカーボン製です。

ーー
次の課題は。

ジャン・マルク
3Dプリンターはテストしています。
新しいインナーコアができれば、
RTMをさらに改良できますから。

ーー
次のフレームを楽しみにしてます。

ジャン・マルク
製品が出るまでは
秘密にしておいてほしいんだけど……
次はRTMが苦手といわれる
軽量モデルに挑戦したいと考えています。

ーー
次に会うのが楽しみです。
今日はありがとうございました。

ジャン・マルク
こちらこそ、楽しい時間でした。

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この後、ジャン・マルクは今後をザビエル・ルシャブシャールに託し退社します。そう、そして最後に彼が挑戦したいと言っていたのが、現在のAlpe d' Huezです。最後の写真でジャン・マルクの隣にいるのは、Timeの創業者ロラン・カッタンの娘、ジュリア・カッタンさんです。

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