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基礎知識と地道なルーティンで、TLRの最高性能を引き出す

2020年はインナーチューブのないチューブレスレディを手掛けるメーカーが、一気に増えました。しかし、ハッチンソンのエンジニア、ジョエル・バレさんは「まがい物が多く、チューブレスレディタイヤの魅力が分からない」人たちがたくさんいるという。画像1

推奨空気圧が最適とはかぎらない

ーー
推奨空気圧って、どのタイヤにも表記されていますけど、その範囲内でも、上限と下限では走行感が大きく違いますよね。

ジョエル
性能を左右するパラメーターは
たくさんあります。
ライダーの体重によって変わるのは
もちろん、リムの内幅も影響します。
他にもパフォーマンスと関係する
要因はたくさんありますから、
体重だけで最適値を決めれば、嘘になります。

ーー
そこで数字を出さないのが、
真面目というか、
ハッチンソンっぽい。

ジョエル
以前は参考値を出していましたが、
最適な数値は自分で
見つけ出すしかないんです。

ーー
それ、知っている人にはいいですけど、
初心者には難しくないですか?

ジョエル
そうかもしれません。
でも、同じタイヤ&空気圧でも、
リム幅が17㎜から19㎜になると、
印象は変わってしまう。
そういう事実を学んで、
その違いを楽しみながら、
自分の数字を見つけてほしいんです。

ーー
インナーチューブが変わっても、
ホイールが変わっても、
フレームが変わっても……

ジョエル
そういうことです。
ただし、安全のためにも
ETRTOで定めた数字は守って下さい。

ーー
どういうことですか?

ジョエル
たとえば、リムの内幅と対応するタイヤ幅は、規格で決められています。
この規格を無視すれば、
タイヤの形状が変わってしまう。
断面は丸いのが理想的ですが、
リム幅をワイドになると、
タイヤ高が低くなります。

ーー
低くなると……

ジョエル
接地面の形状が大きく変わりので、
ハンドリングと快適性が悪化します。

タイヤの性能のベースは、
適正なリムとの関係の上に成立します。

タイヤの形状を
正しく出すということが大事です。
両者の関係が崩れると、
すべてがだめになります。

タイヤ幅25と28㎜は別世界

ーー
不思議なんですけど、
タイヤの幅が23から25㎜になったときは、あまり変わった感じがしなかったのに、
25と28㎜は別世界に感じるのは、
なぜですか?

ジョエル
おそらく、これもリムとの関係ですね。
多くの23㎜タイヤは、
実測すると23㎜以上ありました。
一方、25㎜タイヤは実測で24.5㎜だったりして、両者の違いはすごく小さかったんです。

ーー
使うと太くなるって、
話題になったりもしてました。

ジョエル
以前は、タイヤが太いことに
市場は否定的でしたが、それも変わりました。
現在の28㎜というのは、最小28㎜です。
ということは、3㎜以上太くなった。
これまでの差が1㎜だったのに、
今回は3㎜ですから、大きな違いに感じるのも当然だと思います。

ーー
ロードバイクのタイヤって、
昔は19㎜だったのが、今や28㎜。
この後、どうなりますか?

ジョエル
タイヤが細かった時代の自転車と
最新モデルの違いを考えてみて下さい。
とても軽くなったし、
剛性にも不満はないでしょう。
それでも、新しい製品は出てくるし、
優先順位も変わります。

ーー
確かに毎年、新しくなりますね。

ジョエル
タイヤの性能もそうです。
転がり抵抗は、
以前ほど重要ではなくなりました。
コンマ数秒速く走るよりも、
コーナーでのハンドリング性能や
快適性のほうが大切になった。

ーー
それは進化じゃなくて、
流行みたいなものですか?

ジョエル
そうですね。
以前は自転車を軽くするため、
タイヤにも軽量化が求められました。
でも、今は重量のことは言われません。
サドルだって、そうです。
快適性を犠牲にした時代もありましたが、
現在は長時間乗っても、
身体がフレッシュな方が大事です。

ーー
ジョエルはロードバイクのタイヤは
もっと太くなると思いますか?

ジョエル
ヨーロッパや台北の展示会を見ていると、
流れが大きく変わってきたと思います。
MTBは常に変化し続けますが、
ロードバイクは保守的でした。
それがチェーンリングを1枚にし、
スプロケットをワイドリングにしています。
ワイドタイヤやディスクブレーキも、
大きな変革の1つでしょう。
そう考えれば、さらに太くなっても驚かないし、それは近い将来かもしれませんね。

ーー
快適性がキーワードになっているのは、
間違いないでしょうね。
でも、快適の判断基準は個人差ですよね。

ジョエル
その通りです。



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快適性の作り方

ーー初心者だけではなく、
タイヤの性能を引き出せていない人は
たくさんいると思うんですけど、
どうやって、見極めたらいいんでしょう。

ジョエル
では、タイヤの基本を説明しましょう。
カタログにTPIという項目がありますよね。
これはタイヤのベースになっている
ケーシングの糸の太さを示しています。
TPIとはケーシング1インチあたりの繊維数ですから、数が増えるほど繊維は細くなります。

ーー
高級タイヤはTPIの数が多いですね。

ジョエル
そうです。フュージョン5は127、
エキノックス2は66です。
ただし、快適性はTPIだけでは決まりません。そこを勘違いされている方が多い。

ーー
でも、そのように書いている
メディアやカタログも多いですよ。

ジョエル
ケーシングよりも重要なのは構造です。
同じケーシングでも、補強部材を少なくし、トレッドを薄くすれば、快適性は増します。
逆に言えば、トレッドを分厚くすれば、
耐パンクは向上しますが、
同時に快適性を失う。

ーー
言われても、その通りだと思うんですけど、
そこまで考えている人は少ないですよね。
ベストセッティングの見つけ方というか、
基準はないですか。

ジョエル
では、私のやり方を言いましょう。
体重70㎏なら、最初は空気圧は7barに。
毎日、同じコースを走ります。
走行感にどのような差が出るか考えながら、0.2barずつ空気圧を下げて乗る。
で、ハンドリングがおかしくなってきたら、
もう一回空気を入れ、家に帰って空気圧をチェックします。

ーー
0.2barで分かりますか?

ジョエル
注意深く走れば、差を感じ取れます。
こういう練習をしていると、
タイヤの振る舞いが変わってくることに気がつくようになります。

ーー
振る舞いですか?

ジョエル
長距離、長時間走ると、
トレッドが摩耗したり、
ケーシングの動きが変わります。
そして、その違いを調整するため、
空気圧が新品時よりも高くしたくなる。

ーー
言われてみると、空気圧って、
ちょっとずつ高くなっていたかも。

ジョエル
それは寿命を迎えつつあるということです。

ーー
クルマのタイヤに窒素を入れると、
エア漏れしにくいとか、
静音性が高まるといいますが、
自転車にはどうでしょうか?
あと、パンクしたときに使う
Co2についても……

ジョエル
ラテックスチューブに窒素を入れるのは、
内圧の低下が遅くなるため
使用するプロチームもあります。
ただ、チューブラータイヤの話です。
チューブレス(TL)タイヤに使っても
プラスの効果はありませんね。
Co2についても、同様です。

グラフェンはタイヤを進化させる?

ーー
グラフェンの効果について
確認していますか?

ジョエル
研究開発部門に素材と効果を
チェックするように指示しています。
ただ、効果がないという感じですね。
新しい素材には、興味がありますが、
画期的な改善や進化は認められません。

ーー
どういうチェックをするんですか?

ジョエル
研究開発部門の顕微鏡で見たり、
いろいろテストを行ってます。
どんなマジックもそこにはない。
何も革新的な要素はないという結論です。

TLRは進化なのか?

ーー
シーラント不要のTLから、
必須のチューブレスレディ(TLR)に
トレンドは移ってきましたよね。
シーラントが必要になったというのは、
見方によっては、退化しているようにみえますが……

ジョエル
では、長所を短所で考えましょう。
TLタイヤは作るののは工程が複雑で、
TLRよりも重いのが弱点です。

ーー
ということは。

ジョエル
工程が複雑ということは、
製品不良率はどうしても高まります。
そして、それは価格に反映されてしまう。

ーー
当然でしょうね、それは。

ジョエル
TLRはTLと比べて、
軽量で安価に作れます。
でも、転がり抵抗は悪くなる。
ただし、TLRと言っても
品質に差が大きいので概念化して
評価を出すのが難しいんです。

ーー
え、それは?

ジョエル
あまり他社のことは言いたくありませんが、TLRとは名ばかりの製品もあります。

ーー
どういうことですか?

ジョエル
クリンチャータイヤだったり、TLそのものだったり……

ーー
ええっ。

ジョエル
TLRはリムとの隙間を埋めるために
シーラントが必要です。
ただ、シーラントだけに気密性を頼るようなタイヤもあり、それはTLRとは言えない。
また、TL構造なのに、TLRとして販売しているメーカーもあります。それでは重量のアドバンテージが得られません。

ーー
TLRにはTLやクリンチャーと違う
ノウハウが投入されているわけですね。

ジョエル
もちろん、そうです。
左右のビード間の気密性を保つために、
どのような補強やレイヤーを重ねるか、
私たちは2年ほど研究と開発を重ねました。結果、トレッドの付け方も従来とは違う工法になりました。

ーー
TLRには否定的な意見もありますよね。

ジョエル
ええ、あまりよくない印象の人もいますね。
でも、それは完成度の低い製品しか知らないからでしょう。
TLRは、技術の後退ではありません。新しいタイヤで、専用の開発が必要なのです。

ーー
シーラントの違いは、
走行性能に影響しますか?

ジョエル
いいえ、気にしなくていいです。
テストの結果、大差ありませんでした。
なにより、シーラントに求められる性能は、
パンクしても走りつづけることです。

ーー
タイヤに良し悪しがあるように、
シーラントにも性能差はありますよね?

ジョエル
優秀なシーラントには、
2つの矛盾する性能が求められます。
1つは素早く穴を塞いでパンクを修復する。
もう1つは長持ちすること。
修復能力を上げれば、乾きやすくなり、
液を定期的に足さないといけません。
逆に、長持ちさせると修復能力が落ちる。
このベストバランスを探すのが難しい。

ーー
シーラントを継ぎ足していくと、
タイヤが重くなりますよね。
内側を洗うときの注意点はありますか?

ジョエル
タイヤの内側は軽く水で洗い流し、
乾燥してしまったシーラントは、
剥がそうとせずに、そのままでOK。
シーラントが部分的に固まったら、
ガシガシ擦ったりしないでください。

ーー
キレイにしなくていい?

ジョエル
内側にできる膜は
気密性を保つ役割もするので、
残しておいて下さい。そうすれば、次のシーラントの量が少なくていい。

ーー
やはりタイヤの世界は奥深いですね。

ジョエル
まだまだ話したいこともありますが、
今日はTLRの話ということだったので、
ここまでにしましょう。


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ポディウム公式アカウントです。ヨーロッパのロードバイクシーンがナニを考え、どのように問題に取り組んでいるのか……をお伝えします。http://www.podium.co.jp/

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