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TIMEの新リーダーが明かす “進化する未来とニューモデル”

混乱の時代を越え、TIMEは新しい時代を向かえました。ファストグラベルロードのADHXに続き、フラッグシップモデルのAlpe d' Huez Disc(アルプデュエズ ディスク)をリリース。新工場の設立、未来予想図について新社長がすべてを語ります。

Q:自己紹介してください

トニー・カークラン(Tony Karklins)です。53歳のサイクリストで、レーサーではありませんが自転車が大好きなエンスージャストです。年間の走行距離は2500マイル、子供の頃はツール・ド・フランスで7勝(後に剥奪)したランス・アームストロングと同じカテゴリーで走っていたこともあります。

そして、仕事はTIME BicyclesとCardinal CyclingのCEOです。15歳の高校生のときにバイクショップを持ったので、自転車業界と関わってかれこれ40年になります。これまでにイタリアンブランドのアメリカ代理店を経験し、2000年から15年ほど北米オルベアの代表を務めました。

その後、アメリカでカーボン自転車工場をゼロから立ち上げようとしましたが、それは大変困難でした。そして……

TIMEの技術を手にできないか。

そんなことが頭をよぎりました。オルベアの小売店から、TIMEがいかに技術的に優れたブランドなのか聞いていたので、ずっと動向には注目をしていました。知っての通り、TIMEは自転車業界で唯一、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)工法でフレームを進化させてきました。この工法は自動車や航空機産業の重要パートで採用される技術であり、優れた製造方法であることに間違いありません。ですから、機会が巡ってきたときに迷いはありませんでした。

RTM(Resin Transfer Molding)成形は、雌、雄一対の成形型内に強化基材や必要に応じてインサート材(ウレタンフォーム、ボルト等)を設置し、型を閉締した後、樹脂注入口より樹脂を注入して強化基材に含浸させて成形する方法です。

日東紡
夏のコロラド州アスペンやヴェイルをADHXで走るのが好きだという。Tony Karklins

Q:今後、TIMEはどのように変わっていきますか?

世界中の情熱的なTIMEファンから、私たちが技術を変えたり、生産をヨーロッパから移したりするのではないか? と心配するメールを数えきれないほど受け取りました。心配する気持ちはよくわかりますが、心配する必要はありません。これまで積み上げてきた技術をリスペクトして保ち続けます。同時に、RTM工法には進化の可能性があり、それは今後、研究していくべきだと考えています。

そして、製品開発のスピードを高め、さらにマーケットの要望にもっと耳を傾けることも課題です。また、独自規格のスモールパーツについても改善すべき点だと思います。

Q:スタッフなどに変化がありますか?

従来の開発スタッフに加えて、新しいエンジニアたちを迎えています。さらに自動車産業のRTM専門のエンジニアから協力を受けています。BMW、アストンマーティン、マクラーレン、レクサス……高級車ではRTM工法は珍しいモノではありません。

Q:変わらない部分は?

RTMと共に自社生産でロードバイクを作り続けます。また、プレミアムカテゴリーで高性能車を作り続けること、この点も変わらないです。

スロバキアの工場は以前のフランス本社のサブ工場として長年稼動してきました。30名以上のスタッフは15年以上働いていて、その製造スキルは最高のレベルに達しています。

Q:Alpe d' Huez Discの開発には、どのような指示を出しましたか?

Alpe d' Huez01と21のそれぞれの長所を盛り込むこと。そして、ユーザーから要望の多かったケーブル内装化を指示しました。さらにAlpe d' Huez01のレイアップを応用し、ジオメトリーのアップデートをしました。

Q:Alpe d' Huez 01の後継モデルですか?

後継モデルであり、さらなるアップグレードを目指しました。軽量で高性能な繊維のダイニーマとベクトランを併用しています。ダイニーマは自然環境のなかで分解されるという特徴もあります。

フレームに使われる樹脂も徐々に生分解性の素材が採用されつつあり、ハイエンドバイクのトレンドになりつつあります。

Q:ベクトランとダイニーマはどこに使われているのですか?

ベクトランは主にフォーク、トップチューブ、ダウンチューブで使っています。ダイニーマはトップチューブ、ダウンチューブ、チェーンステーに使っています。特に弱い部分で構造的に強度を上げる目的で採用しています。

Q:通常使用でカーボンフレームが壊れることは稀だと思うが……

この25年間、自転車業界に関わってきた経験で言うと、プリプレグ製のカーボンフレームはよく壊れます。近年はケーブルの内蔵化が原因で破断しているのが現実です。しかし、RTMは構造内にすきま、つまり泡が無く、強い構造体になります。

Q:サウスカロライナに工場を新設する理由は?

生産拠点をローカルに保つことは、ずっと取り組んできたことです。TIMEはEUをベースにしていますが、そのコンセプトは変わりません。デザインチーム、工場、生産拠点が、売上の大部分を占める地域にあれば、常に最高のサービスを市場に提供することができます。また、知的財産を保護する最良の方法であり、生産方法の効率と持続可能性を向上させるための基盤が得られます。

サウスカロライナはアメリカの自動車・航空機産業の、特にRTM技術の中心地です。BMWやクレムソン大学がRTM技術を10年近く非常に高度なレベルに引き上げているので、そのテクノロジーをフレームに応用したいと考えています。

またサプライチェーンも、サウスカロライナの小さなエリアに集中しています。ただし、あくまでも第2工場であり、第1工場は20年の経験を持つスロバキアの工場です。どちらでも生産は続きますし、2つの工場で供給をしていきます。

Q:工場によって生産するモデルを変えますか?

いいえ、どちらの工場でも生産するフレームに変わりはありません。ヨーロッパの工場はヨーロッパ近辺の市場。アメリカの工場は、アメリカ近辺の市場のために生産をします。

Q:ニューモデルのロードマップについて

エンデュランスバイクとして発売していたFluidity(フルイディティ)を復活させます。また、グラベルの第2モデルを計画しています。さらに2024年にはScylon(サイロン)の次世代モデルについて話ができるようになるでしょう。現在、これらの3つのプロジェクトに注力しています。
ケーブルの内装システムに対応した新しいハンドルバーやステムも2024年に計画しています。ここまでは言えます。

最終的なターゲットとして5から6のモデルを持つブランドになりたいのです。1年に1.5モデルのペースで投入して行きたいと考えています。

Q:ブランドのポジションは変わりませんか?

ここ数年、ヨーロッパの製造コストの上昇で、例えばAlpe d' Huez21がもう供給できなくなったのも、あまりにもコストが上がりすぎたからという理由があるのです。自分たちの価格帯のターゲットとしてはミッド・プレミアムのカテゴリーを充実させます。スペシャライズドのSワークスの価格帯です。アメリカではここがプレミアムモデルとして最も需要が大きい部分なんです。ここから上はマーケットとしては非常に小さくなります。
フレームセットで6000ドルまで。
完成車で12,000ドルまで、それ以下の価格帯と言うことになりますね。

Q:今後のモデルに期待できることは?

 むずかしい質問ですね。TIMEは何をすべきか、また何をすべきではないか。選択肢が出るたびに考えていくしかないと思ってます。その基本にあるのは、創業者のロラン・カタンさんの志しに従う方向で決めようと思います。

Eバイクを作りますか? と時々聞かれますが、現在の性能では私たちに求められる製品は作れないでしょう。したがって、現段階においてという条件がつきますが、Eロードは出しません。

Q:注目している新たな技術は?

いま2つのRTM技術に注目しています。1つはHP (ハイプレッシャー)RTMで今年後半には大きな投資をします。、もう一つはサーフェスRTMというものでハイエンドの車に使われていて、剛性を向上させ、仕上げも見事です 高価な技術であり、自転車で採用されたことはありません。最新の素材とテクノロジーを用いて、最高の性能を目指すのは、ロラン・カタンの考え方に沿った展開だというふうに考えています。

サステイナビリティ、循環性を重視した、素材や技術の採用にも注力しています。現状、これらの技術はハイテクな製品に展開しにくいのです。環境の持続性に有利な素材はありますが、ハイパフォーマンスなバイクに用いるには、さらなる進化を待たねばなりません。将来的な可能性を秘めているので、これらの分野に注目し、来るべき機会を逃さないようにしたいですね。

Q:プロチームのスポンサーは?

もちろんスポンサーしたい。約1年半前にスポンサーの話もありました。スポンサリングかテクノロジーの進化のどちらに投資すべきか、ということになりました。スポンサーすべきだという意見も多かったですが、我々はテクノロジーへの投資を選びました。

現状でUCIプロチームをスポンサーすれば、販売するフレームがなくなってしまいます。アメリカの工場を立ち上げて、2~3年後に検討できるようにしたいです。

Q:最後に、日本について知っていることや印象は?

東京に3度ほど訪れたことがあり、我が家は日本からの交換留学生を受け入れています。日本の文化に触れ、敬意を持っています。14歳の息子がいますが、18歳になったら日本に一年ほど留学させてようと考えています。最後になりましたが、TIMEファンの皆さんにお目にかかれるのを楽しみにしています。