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次世代ロードバイクの機能性を加速させるK-Force WEに込めた想いを語ろう

11月某日、プラネットポディウム編集部に一通のメールが届きました。差出人はFSAの社長、クラウディオ・マッラさんからでした。

記事を面白く拝見しています。このメールをくれた方と、我々のスタッフでオンラインミーティングしてみたら、さらに面白いことになるのではないか?……と。

FSAからの申し出を断わる手はないので、編集部は手紙を書いてくれたKTさんと連絡して12月初旬にZoomでミーティングが行なわれました。FSAからは電動ドライブトレイン研究開発プロジェクトマネジャーのアルフレッド・サラさん、セールス・マネージャーのエドアルド・ジラルディさんの2人が参加してくれました。

それでは、早速、ミーティングに移りましょう。

K-Force WEのはじまり

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K まずコンポーネントを作ろうと思ったのはいつ頃ですか?

A 最初にアイデアを思いついたのは2011年です。けれど、実際に作業にかかったのは2013年からでした。

K コンポーネントパーツを作ろうと言い出したのは、誰だったんですか?

A 社長のクラウディオです。彼がマネジメントして、戦略的な方向性が決まりました。それは私たちにとって、とても大きな決断でした。

K そのミッションには、どんな目標が与えられていたのですか?

A 目標はシマノです。ただし、真似をするのではなく、FSAのアイデンティティを失わないグループセットであること。それも重要なテーマであり、彼ら(シマノ)に匹敵するパフォーマンスを発揮させるのが、ターゲットでした。

K それはずいぶんと高い目標を掲げましたね。しかし、ナニをもってFSAのアイデンティティだと考えたのでしょうか?

A エンティティ(entity)という言葉を使ったんですけど、簡単に言うと“ほかと違う存在であること”と言ったところでしょうか。それがワイヤレスという方向に導いてくれました。

K なぜ、ハイブリッドにしたのですか?

A 技術的に言えば、前後ともにワイヤレス化するのは難しくありません。でも、私たちはハイブリッド方式を選択しました。複雑なワイヤリングから解放されるのはとても魅力的だし、完成車メーカーの標準仕様部品にしてもらうことも考えると、ワイヤレスの利点は非常に大きい。しかし、完全にワイヤレス化するには、それぞれのパーツにバッテリーが必要となるし、重量を考えればバッテリーサイズの制限も厳しくなってしまう。

K なるほど。ワイヤレス自体はカスタマーである完成車メーカーにとっても、ユーザーにとっても魅力がある。けれど、重量とバッテリー寿命のバランスをどうするか……

A そうです。ワイヤレスがもたらす恩恵と弱点のバランスをどのように判断するか、最初は苦しみました。特にバッテリーサイズを決めるのは大変でした。

K ということは、進化の余地があるわけですね。将来、バッテリーが軽く、小さく、充電量が増えればフルワイヤレスになる。

A もちろん、バッテリーのパフォーマンスがさらに上がれば、その可能性はあります。しかし、現在の段階で言えるのは、それは難しいということです。特にリアディレイラーについたバッテリーは、どうしてもサイズが大きく感じられてバランスが悪くて不格好になってしまいます。

K スラムはリアディレイラーにもバッテリーを搭載していますよね。

A まず、スラムの開発チームはいい仕事をしたと思います。バッテリーとモーターをリアディレイラーにつけるというのは、大変なことです。同時に、我々が採用した1つの大きなバッテリーとケーブルでつなぐという方法は、それ以上の効果を発揮できるのです。ハンドル周りのスタイリングをスマートにしつつ、大型バッテリーによるアドバンテージを最大限に引き出しています。

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K バッテリーの寿命が長いのがWEのアドバンテージですよね。

A K-Force WEが採用しているのはリチウムバッテリーです。非常に長寿命で、3000㎞充電なしで走れます。街なかをのんびり走るか、山を中心に激しく走るか、走行状況によってバッテリー寿命は左右されます。あとはシフト回数の多い人なのかどうか、ということにも左右されます。3000キロメートル走れるというのは、十分な長寿命だと考えています。

K 発表時のデータでは6000㎞だったような……

A よく覚えていますね。確かに6000㎞と申し上げていました。なにか事情があって短くなったように思われるかもしれませんが、そうではありません。テスターによっては8000㎞も問題がなかった人もいました。ただ、確実性を取って無難に3000㎞と言いました。

K では現段階のオフィシャルだと、何㎞になりますか?

A 一般的なアマチュアなら6000㎞と言っても差し支えないです。K-Force WEは何回シフティングしているのか計測しているのですが、あるプロ選手は1レースで2500回も変速していました。そんな走り方だったら、下手すると3000㎞を切るかもしれない。その一方で、8000㎞を走った人もいる……だから、記事にはそのように書いて下さい。

K 個人差が出るということですね。

A そうです。ほかにも変速する時に、ちょっとトルクを抜くと電力の需要が少なくなります。逆に、トルクをかけながら変速するとバッテリー寿命が短くなります。

K コントロールレバーを2種類作った理由を教えて下さい。

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A 私たちはハンドルも作っており、ライダーの体格や嗜好(しこう)に合わせるため、人間工学に基づいて設計し、様々なサイズやデザインの製品を作っています。それは、すべての人に対応できるひとつの解答はないのだということを思い知っているからです。コントロールレバーにしても、然りです。手の大きい、小さいという違いに対応するためには、2種類のレバーが必要でした。

K レバー長の違いは、なぜ6㎜なのでしょう。

A この差は小さく見えるかもしれません。でも、手の小さい多くの人にとって大きな差です。たとえばハンドルのドロップ位置を握っている時に、指がレバーに届きにくいという問題を解決できる。ただ、小さくしすぎると、今度は、てこの原理が有効に使えなくなってしまうので、機能性が落ちてしまいます。

多くのライダーでテストした結果、6㎜が十分な差であると判明しました。厳密的に考えると科学的というよりは統計学的な結論ですが、いろいろな手のサイズの人に対応できるようになりました。

K 手袋は指の長さでサイズをSやMとガイドしていますが、同じようなガイドラインはありますか?

A 残念ながら、コントロールレバーにおける人間工学的なアプローチというのは、手袋のサイズほど単純ではありません。ドロップポジションをグリップして走行する時間が長く、ブレーキ機能を重視する人なら、手が小さくても長い方のレバーを選んだ方がいいのです。一般的には手の大きさに比例しますが、指の長さだけでは決めかねる部分もあるのです。標準的な手の大きさの人は、ショップの方とも相談してみて下さい。

K ブラケットの形状についても何か言えることありませんか?

A 様々な角度から検討し、いろいろとテストをしました。ただ正直に言えば、レバーとブラケットを2種類ずつ作ると、それだけで4つの組み合わせになる。これはビジネスパートナーの負荷を大きくしてしまう。ユーザーのためにパフォーマンスを追求するのはもちろんですが、ビジネスパートナーのことも考えるのがメーカーの責任です。そのためにも最善な形状をデザインする必要があったのです。

K レバー長とブラケット形状だと、レバーの違いがより効果的ということですか。

A そうではありません。ブラケットよりも、レバー長の変更の方がスマートにできます。ブラケットの中には電気製品も入るし、ブレーキ用の油圧シリンダーも収めなければなりません。そんな制約が多い場所でブラケットの種類を作るよりは、レバーの方が対応しやすかったというのも否定できません。

E  ですが、もっとも高く評価されているのは、ブラケットやブレーキレバーのエルゴノミックな性能なんです。レバーの長さが2種類あることもそうですが、サイズよりもレバー形状やミニマルなデザインについても、お褒めの言葉を頂いています。

K ハンドルバーを作っているのも、ほかのコンポーネントメーカーにないアドバンテージですね。自社製品のハンドルと合わせた時に最大の性能を発揮するといった秘密はないですか?

A 自社製品でテストを繰り返してきましたので、当然、相性がよくできています。K-Force WEは、新たに追加するスーパーコンパクトシェイプでも完璧に機能するように作られています。

K 他社の製品だと性能が落ちるというわけではないですよね?

A もちろん、そういうことではありません。

K 操作系の質感を決めるに当たって心掛けたことは?

A 素材の選定は慎重に行いました。軽量性は言うまでもありませんし、耐久性も重要です。すべてのパーツで最高の素材を選ぶために、多くの研究を行ないました。モーターの内部のギアには、特殊なスチールを使って耐久性を特別に上げてあります。カーボン製のレバーも、適切なボリュームを持ちながら軽量であるように努力をしました。

重量とパフォーマンスと耐久性。この3つの要素のバランスをベストなところで見つけだすために、多くの努力をしました。変速のスイッチのボタンもそうです。初めてのドライブトレインであり、バネレートの硬さも様々な組み合わせでテストを繰り返しました。研究をすると同時に我々もとても勉強をしたというのが正直なところです。

K 質感を演出していくうえで、参考にした製品やカテゴリーはありますか?

A 他の分野での技術的なものの見方というのは、とても参考になりました。自転車業界にも参考になるものはありますけれど、他の業界のユーザーインターフェースは非常に参考になりました。

E ひとつだけ公開するなら、リアディレイラーのデザインにインスピレーションを与えてくれたのは、産業用のロボットアームでした。

K 今後、コンポーネントはどのような進化を遂げると思いますか?

A 今ひとつの流れとして、エレクトロニクスの採用が挙げられます。変速においても、パワーメーターにおいてもそうです。そして、eバイクも大変人気を集めています。エレクトロニクスのおかげで、とても多くのデータを収集することが可能になっています。ただし、もっとも大切なのは、入手したデータをどのように処理して、その中から本当に有益なものを引き出す。そういったものが今後チャレンジすべき方向性だと感じます。

K 逆に、こういう進化はしないと思うものはありますか? たとえば、自動車で言えば自動運転みたいな、自分の存在意義を否定してしまうような進化もあると思うのですが。

E ロードバイクに乗りたいという気持ちを動かしている根幹は情熱です。なので、自動的にギアを選択するようなシステムは、ことミッドレンジ以上のモデルでは求められないでしょうね。

K シマノのシンクロシフトもですか?

E ヨーロッパのライダーは、あの機能を使いません。避けます。機械にやってもらうのではなくて、自分の脚に感じた感覚でギアを選びたがります。

A 私もエドアルドの意見に賛成です。オートマチックへのニーズは小さいままだと思います。スポーツカーの多くもオートマチックですが、ステアリングの近くにはパドルシフトがありますよね。やはりコントロールする喜びは普遍的だと思います。また、次の機会にちゃんと答えられるように考えておくので、宿題にして下さい。

ひとまず、ミーティングはここで終了となりました。

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