ベストポジションの目指す場所
いいポジションとはパフォーマンスの落ち込みを抑えるポジションのことです。トレーニングの究極の目的である平均速度の向上に大きく役立ち、快適で身体に障害を発生させません。
idmatchは他のバイクフィットサービスよりも格段に分かりやすく、短時間に、手軽に安全なライディングフォームを手にすることができます。
そこで詳しい話をする前に、まずは動画で全体の流れをつかんでみて下さい。
ということを前提に、創業者ルカ・バルトリの話を続けます。
ルカ
バイクフィットの秘訣は、必要最小限の筋肉を動員させることです。例えば全力で走るのに、ハンドルを引きつけるとします。短時間であれば効果を発揮するかもしれませんが、エネルギーの消費が大きく長時間続けるのは不可能です。idmatchの目標はバイオメカニカル的に良いポジションによって、最小のエネルギー消費で最大の平均速度に達することです。同時に身体の平均的消耗を予想し、それを最小化するポジションを探り出すということです。
サドル位置を少し変更して5時間ほど走り、ハンドル位置を変えてまた5時間……これを繰り返します。こうした方法でベストポジションにアプローチをかけたなら、バイクフィットに専念して10日かかります。私たちのシステムの核心は、それを10~15分間で行なえます。
idmatchのアルゴリズムには、はずすことができない生理学上のルールがいくつかあります。一例を挙げると、ヒザ周りの筋肉は、関節が138度から148度の角度で動くときに効率的にパワーを発揮します。実際にエネルギー消費を計測するのではなく、関節の角度を測定するわけです。この角度の範囲でエネルギー消費と発揮するパフォーマンスが最高度のバランスに達するからです。
このように乗車中の身体の各箇所のデータを分析し、それらをもとに全体的なポジションに落とし込むわけです。
唯一無二のポジションはあるのか?
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2回のidmatchを経験しましたが、それぞれポジションは変わりました。
ルカ
ポジションが変化する要素はいろいろあります。
ひとつは年齢です。若い頃は身体が変わり続けるので、ポジションも頻繁に変化します。大人になれば頻度は下がります。35歳から60歳の間は、事故などの問題がなければポジションが安定します。
夏と冬では筋肉の粘弾性が変わり、ポジションも変わります。1月に高温乾燥のアラビア半島で走った直後、低温多湿のフランダース地方を走るプロ選手の場合、ポジションは完全に変わります。アラビアではサドルは少し高めでトップが長めになります。フランダースに行くとハンドルを近くに、サドルとハンドルの落差も小さめに変更します。
標高も影響します。海抜2000メートルを超えるメキシコシティでアワーレコードに挑戦した有名選手がいました。身体にかかる気圧が低いので、ハンドルまでの距離を長く設定しました。異なる地域へとステージレースを転戦するならポジションは変わっていくでしょう。冬用の設定から翌週は夏用ポジションに変わることもあります。
トレーニングによってもポジションは変わります。
うちのラボで見ていると、1日30キロから始めた人が、1年後には150キロ走るようになります。初心者なりの正しいポジションと、適切な練習をした1年後のポジションは間違いなく変わります。身体がサイクリングという新しい運動に適応してくるのです。
トレーニングを積み上げたプロの場合、ポジションは安定しています。それでもシーズン当初とトレーニングを積んでシーズンインするときでは少し変わります。気温によっても変わります。
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ステージレースでは毎日天候が変わりますね。
ルカ
ポジションを変更するか否かは、選手によって異なります。フィーリングの変化を嫌い、同じポジションを維持する人もいます。でも、現在はあらかじめ2,3のポジションを提案し、天候、コース・プロファイル、シーズン中のタイミングに応じてポジションを使い分けます。
例えば、急にタイムトライアル専用ポジションで走ることはできません。練習が必要です。落車のダメージを負ったときもそうです。リカバリーのためのポジションも含め、シーズン中に遭遇する問題に対応できるような複数のポジションを練習しておくことが大切なのです。
この原則は、一般の人にも当てはまります。複数のポジションに慣れることで安全で健康的なサイクリングが可能になる。ただ、練習なしにプロの真似をし、トレーニングしていないポジションでとつぜんイベントに出ることは絶対にやってはいけません。
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自宅にidmatchバイクラボをおいてポジションをチェックしているトップライダーもいるそうですが、そこまでやる必要はありますか?
ルカ
彼は極めて優秀なプロ選手です。レースに備えて常にポジションの研究を続けています。彼は複数のカテゴリーで競技をこなし、シクロクロスはサーキットごとに別のポジションが必要になることもありますから。
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上りで多くのライダーがサドル前方にお尻を移動させるのは、導き出したポジションを崩していることになりませんか?
ルカ
バイクフィットとは、あらゆる状況でいいパフォーマンスを出せるような妥協点です。上りは距離に関係なく、ポジションがパフォーマンスに大きく影響します。重力の方向が変わり、運動の性格も大きく変わります。10分間だけの上りでも、ポジションが悪ければパフォーマンスは低下します。上りだけを念頭にフィッティングを行なうなら、ポジションを修正することも可能です。
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どのように?
ルカ
上りでサドルに坐っているとき、ペダルを前に押し出すのではなく、真下に踏める位置にサドルがあれば良いパフォーマンスが期待できます。以前、前輪が小さくて後輪が大きな自転車を準備してテストした結果、タイムが改善したのです。
UCIルールに抵触するので公式レースでこのような自転車は使えません。しかし、上りコースへの対応策として、とてもいいアイデアです。
ペダルを前方に踏むというのは、上体を後ろ方向に押していることになります。そこでハンドルを引きつけるとパワーが増大した気分になりますよね。ボート漕ぎと同じ感覚です。しかし、このポジションは多大なエネルギーを必要とします。身体を安定させるために多くの筋肉を使ってしまいます。下方向にペダリングしていれば、自分の体重が、サドルにしっかりと坐る方向に作用してくれるのです。
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日本ではヒルクライムイベントが人気です。上り専用ポジションだと有利になりますか?
ルカ
勾配によります。10%以下の斜度であればノーマルなポジションで対応できます。それが14%となると話は別です。
かつて、ジロ・デ・イタリアの個人タイムトライアルで、前半は平坦、後半が極端に厳しい上りのステージがありました。前半はタイムトライアルバイク、後半をロードバイクに乗り換えた選手が多くいました。そのとき、選手は上り専用ポジションを使ったのです。ハンドルとサドル間を短くし、落差を大きくしました。
マーカーレスシステムの本当の目的
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idmatchバイクラボではマーカーレス(関節にマーカーを貼らない)システムを強調しています。そのことに本質的な意味がありますか?
ルカ
バイクフィッティングは、身体を正確にとらえることから始まります。マーカーを使う方法こそ、人体の動きを解析するために最善です。これは大前提です。
研究所の実験では、8~45台のカメラを配置し、100個のマーカーを身体に付けます。関節ではなく、関節と関節の間に4つのマーカーを十字架のように貼り付けます。それを全身に行ないます。さらに特殊なステッカーを、肩であれば前・上・後ろに貼ります。そのつどコンピュータに位置を記憶させます。ここまでで4時間必要です。そこから、マーカーの動きをコンピュータで計算し、全身の関節位置を割り出すのです。
マーカーを1つ貼り付けて、これが関節の位置です、とすることにまったく意味はありません。そのマーカーの下に関節の中心はありません。
私たちは、本来のマーカーを使うシステムの複雑さをなくし、同じコンセプトを再現できる3Dカメラを使ったシステムを開発しました。さもなければバイクショップでフィッティングはできません。
3Dカメラによるボディスキャニングは、100万個のポイントを体表に貼り付けることに相当します。小さな網の目を身体が通り抜ける様子を想像してください。網の交差点がマーカーの役割を果たすわけです。大量のポイントが動く真ん中に関節の中心があると考えるわけです。
最高のシステムと同じ仕組みです。しかも実用性は非常に高い。違いは精度です。100個のマーカーを使う方法はほぼ完璧です。それに比べると、わたしたちのシステムにはわずかな誤差があります。ただその誤差も計算ずみです。常に1キロ軽く表示される体重計があれば、正しい体重を計算できるのと同じ理屈です。
この精度で身体をとらえることで、正確なポジショニングを開始することがやっと可能になるのです。
(つづく)