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Timeの源流を訪ねる 1

2016.1.21  ジャン・マルク・グッグヌー

Timeを語る上で忘れることのできない人物が2人います。ひとりは創業者のロラン・カッタン。もうひとりは、伝説の名エンジニア、ジャン・マルク・グッグヌーです。

年末、編集部でハードディスクの整理をしていたら宝物を発見。なんと、2017年にリタイアしたジャン・マルクの未公開インタビュー音源でした。というわけで、予定していたコンテンツを変更して、2回に渡ってアクティブフォーク誕生に纏わる話をご紹介します。

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ーー
Timeのフレームが好かれる秘密はなんですか。

ジャン・マルク
どうでしょう。秘密ではありませんが、共通している点があるとすれば、乗る喜びと性能のバランスを大切にしていることですね。あと、フレームの設計にはいろいろな考え方がありますが、個性を演出するためや、キャラクター作りのため、1つのパフォーマンスにだけ長けた自転車を作ろうと思ったことは一度もありません。

その姿勢が高く評価されているのだとすれば、とても光栄ですね。

ーー
でも、アルティチュードモデル(アイゾン)は登坂性能に長けているのがセールスポイントでは。

ジャン・マルク
アルティチュードというカテゴリーは、わたしたちの考え方を知ってもらうのに最適なカテゴリーです。

山をのぼって頂上に到達すると、次は危険な下りですね。そんなとき、完璧な精神状態で下りに臨めるサイクリストはいません。ならば、そのウイークポイントを助けてあげる自転車でありたい。ハードウエアだけでなく、ライダーを含めて統合的にデザインすることも重要です。

――
なるほど

ジャン・マルク
トップレベルの競技者もいれば、ゆっくりとツーリングを楽しむ人もいます。それぞれのサイクリストが求めているセンセーションを自転車が与えているかどうか、それがもっとも大事なことです。

競技者とツーリストの求めているものは違うし、同じ人でも状況次第で自転車に対する心象は変わるんです。

たとえば、峠の上りでがんばって疲れた後に、下りに差しかかったのを想像してください。

ーー
はい

ジャン・マルク
仮に完璧なライダーと状況が揃ったなら、ねじれ剛性は高ければ高いほど反応性もよくなり、パワーロスもなくなります。でも現実の世界は違います。

大切なのはバランスです。機械的な特性を高めても、ライダーとのマッチングが悪くなれば、走行時のコントロール性は低下して効率が悪くなってしまう。

疲れた状態のライダーにとって、ねじれ剛性が極端に高い自転車は危険です。というわけで、フレームの開発には使用する用途が必要だし、ユーザーは目的に応じた製品を選んだ方がいい。

ーー
機械的な速さだけを見ても意味がない。

ジャン・マルク
実験室では高剛性のほうがよくても、現実の世界ではいい結果が得られないこともあります。

ーー
ってことは、ライダーの技量も影響しそうですね。

ジャン・マルク
たとえば高速コーナーや路面状況の良くないヘアピンカーブなど、難易度の高い下りでは普通の精神状態でいられない。下りでコントロールを失ったら、大変なことになりますからね、ライダーのテクニックやスキルで自転車の評価が違うのは当然でしょう。

ーー
剛性を上げ、剛性感を上げないということはできないんですか?

ジャン・マルク
まず、剛性について私たちは2つ分けて考えています。ひとつはねじれ剛性、もうひとつが縦方向の剛性です。この両者は混ぜて考えるとよくない。

縦方向の剛性は快適性につながります。そこで私たちはベクトランという繊維(バイブレーザー)を採用しています。RTM(レジン・トランスファーモールディング)製法は、繊維の方向性や量を設計に忠実に再現できるので、剛性を最適化することでライダーの疲労を最小限に抑えています。

ねじれ剛性はハンドリングや加速感に影響します。強化すると剛性だけでなく、剛性感の向上をどうしても感じます。

ーー
そもそもフレームの剛性感というのは、どこで考えるべきなのでしょう。ダウンチューブのヘッド側からヘッドチューブの下側のエリアが体感性能に大きく影響しているように思うのですが……

ジャン・マルク
乗り手によります。
ヘッドチューブ下側とダウンチューブのねじれ剛性を重視するのは、競技者かダウンヒルを得意にしている人の特徴です。したがって、スカイロンはダウンチューブのねじれ剛性を上げています。それは競技者が好む傾向だからです。その一方で、フルイディティはヘッド側もBB側もやわらかくしてあります。

ーー
でも、Timeのラインナップはライダーで区分けするのではなく、用途別ですよね。

ジャン・マルク
そういう視点で言うなら、スカイロンはトップレベルの選手用です。パワーやテクニックがない人たちに向いているのは、フルイディティだということが言えます。

ーー
でも、プロ用をほしがる人が多いのではないですか

ジャン・マルク
そういう人はフランスにも多くいます。
評価は人それぞれなので批判するつもりはありませんが、私のような立場から言わせて貰えるなら、少し拙速な評価が多いと感じます。

個人の感想であれば、それを否定するつもりはありません。ですが、ヨーロッパのメディアの評論を読む限り、しっかりと自転車を研究し、十分な量と検証可能な科学的な背景がほしいと思ってしまいます。

――
アクティブフォークの優位性は科学的で説明しやすいですね。

ジャン・マルク
アクティブフォークもそうですが、そもそも振動を制御するのは、私がずっと取り組んできたテーマなんです。最初のアイデアはベクトラン繊維をカーボン繊維とともに使うことで、このアイデアは現在も使い続けています。特にフルイディティには大量に使っており、効果もでています。

ただ、単に素材を使えば必ずしも最高の性能を発揮するわけではなく、ほかのブランドではパフォーマンスが下がってしまって、一般的には低い評価しか得られていない。

ーー
素材だけじゃ、性能は決まらない。

ジャン・マルク
その通りです。

ーー
そして、ベクトランだけじゃ満足できなかったわけですね。

ジャン・マルク
研究を進めていたら、偶然、スキー業界のロシニョールとサロモンが振動を減らす技術やパテントを持っていることが分かった。ロシニョールはVAS、サロモンはプロリンクという技術があり、それらを応用することはできないかと思ったんです。でも、失敗しました。自転車では効果がなかった。

ーー
え、失敗……

ジャン・マルク
そこからさらに、高等専門機関の研究室の協力を得て発想したのが、アクティブフォークなんです。

ーー
大学ですか

ジャン・マルク
エンジニアリングの分野で非常に評価の高い、エコール・セントラル(Ecole Centrale)というフランスではよく知られた高等専門機関です。

――
協力を要請するぐらいだから、優秀なんでしょうね。

ジャン・マルク
優秀なのは間違いないです。でもやっぱり学校なので、毎年、協力してくれるチームのメンバーが変わってしまう。したがって相互に研究開発したモノをテストするのにかなり時間がかかってしまいました。

その代わりというわけじゃないですが、私たちは走行中の快適性を向上させる3つのパテントを取得しました。そして、最終的にベストだと思えたのがチューンド・マスダンパーのシステムで、アクティブフォークが誕生しました。

ーー
開発段階では予想外のことが連続しましたか。

ジャン・マルク
いいえ、開発の途中で予想外のことは特になかったです。でも、実際に商品化してみたら、ダウンヒルでの安定感、安心感、そしてコントロール性が増すことによって、よりダウンヒルが速くなったというフィードバックが寄せられました。これは当初の意図からはちょっとずれた、予想外のいい結果でした。

ーー
というのは

ジャン・マルク
結果論で言えば、快適性の向上という進化の中に、接地感の向上が含まれていた。そして、下りの性能がものすごく上がった。これは一番大きな結果だったと言えます。

つづく

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