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11ストームに秘められた現代タイヤの基礎知識

前回に引き続き、ハッチンソンのエンジニア、ジョエル・バレさんのインタビューの続きをお届けします。ディスクブレーキ時代の到来とともにワイド化しつつあるロードバイク用タイヤ。その魅力と気をつけるべき点を忌憚なく技術者に聞き、忖度ナシに答えてくれています。

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ジョエル
タイヤメーカーが製品説明するときって、
コンパウンドの話が多いですよね?

ーー
ええ、ケーシングについては、
繊維密度(TPI)ぐらいですね。

ジョエル
その理由は、ケーシングの素材って、
それ自体には大きな違いがないんです。
だからコンパウンドの話が多くなりますが、
似たような素材でも、使い方次第で性能に大きな差が出ます。

ーー
どんなときに、
その違いを感じられますか?

ジョエル
たとえば、空気圧を低くすると、
乗り心地は大きく変わりますよね。
ケーシングの動きが大きくなると、
グリップと快適性は上がります。
ただ、コンパウンドも伸縮するため、
寿命は短くなります。

ーー
グリップや寿命など、
性能にもいろいろあると思いますが、
ハッチンソンが製品を評価するときに、
いくつパラメータを設定していますか?

ジョエル
主に4つパラメーターがあります。
●耐摩耗性、
●転がり抵抗
●濡れた路面でのグリップ
●快適性。
これらはすべてが連動しています。
“あやとり”のように、1つの糸を引っ張ると、ほかの部分も動いて、全体の形が変わります。

ーー
ウイークポイントだけを強化するというのは難しいんですね。

ジョエル
そうなんです。
転がり抵抗だけを向上させることは、
難しくありません。ほかのパラメーターにしても、1つだけ伸ばすのは簡単なんです。
だから、最善の妥協策を探すのが、
我々の仕事になります。
転がり抵抗はグリップ力と、
グリップ力は耐久性と二律背反します。

ーー
11ストームでは、
どこが良くなったんですか。

ジョエル
イレブンストームは
転がり抵抗を小さく、
同時にウエットグリップも上がりました。
それに大きく役立ったのがシリカでした。

Hutchinson コラージュ01

ーー
フュージョン5と11ストームの違いは、
コンパウンドだけですか?

ジョエル
そうです。このコンパウンドのために
300人の科学者が3年も費やしました。

ーー
11ストームを作るにあたって、
何種類のコンパウンドを試作しましたか?

ジョエル
3年間で、35種類です。
実は製品化したものより、
高性能もありました。
でも、それが量産できるかとなると、
また別の話なんです。
転がり抵抗、対摩擦性能、グリップ力……
工場で作ってみると、
ラボよりも性能にバラツキがでてしまった。
製品化されたコンパウンドは
もっとも性能のバランスがいいモノです。

ーー
長持ちして、グリップも高く、軽くて安い。
これがユーザーの理想ですよね。
最近は耐摩耗性の優れたモデルが
人気を集めていますが、その点については。

ジョエル
それぞれの目的によって性能は違います。ギャラクティックと、オールシーズンでは
要求される性能は異なるから、
トレッドの厚みも、転がり抵抗も違います。
ギャラクティックはトレッドが薄く、
転がり抵抗も小さい。
オールシーズンはトレッド厚くし、
耐久性を向上させます。

ーー
距離の数値目標があるんですか?

ジョエル
体重、路面状況、空気圧、コース
それらの条件によって、走行距離というか、
タイヤにかかる負荷は大きく違います。

ーー
体重が 10 ㎏変わると、
何パーセント変わるみたいな、
指標はありますか?

ジョエル
おもしろい質問ですが、
そういったデータはないです。
体重の重いライダーは快適性を重視して、
低い空気圧を好む人もいますし、
その逆のパターンもあります。
極端に条件が違うと、
耐久性は50%近く変わります。

ーー
タイヤを開発するときって、
最初に目標を決めて開発を進めていくのか、それとも3年なら3年と期限を決めて、
その間にできたモノを製品化するんですか?

ジョエル
それぞれの製品には、開発する段階で
想定されるライバルがあります。
そのベンチマークを基準に、
最初に精度の高いゴールを設定します。
それがベースです。
非常に細かく、高い目標があって、
それに到達するように開発します。

ーー
経験豊富なベテランは
走行感を調整できると思うんですけど、
日本の初心者は、どうしたらいいでしょう。
ヨーロッパの人たりよりも日本人は軽く、
コースのコンディションもキレイです。
どのように調整したら、
メーカーの考えている性能になりますか。

ジョエル
新しいタイヤに乗るときは、
推奨指定空気圧内で快適性を最優先します。初心者に限らず、経験のあるライダーでも、まず快適性が大事です。
チューブレスやチューブレスレディの場合、
空気圧をチューブドタイヤと比べて、
0.3〜0.5barぐらい気圧を下げます。

ーー
ほほぉ。

ジョエル
プロ選手にもアドバイスをしていますが、
とにかく空気を入れすぎないこと。
空気圧を上げても、性能は比例しません。
ライダーは空気圧に敏感であるべきです。
セッティングが決まるまでは、
サイクリング中に調整すればいい。
そこが見つかったら、
走り終わってから測定しておくこと。
古典的ですが、確実な方法ですね。

ーー
ホイールやフレームが変わったら、
セッティングも変わりますよね。

ジョエル
もちろんです。話が逸れますけど、
チューブレスタイプの場合、
リムの断面形状が、安全に関わってきます。
この話、続けていいですか?

ーー
ぜひ、お願いします。

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ジョエル
リムの断面形状に不備があると、
タイヤが破裂する可能性もあります。
そういった深刻な事態を避けるために、
高精度のホイールを使用してほしいのです。
たとえばシマノのホイールは
リムの精度が非常に高いです。
中にはETRTOで定めた規格に準じておらず、
不安なものがあります。

ーー
ETRTOに準じていない製品が……

ジョエル
あります。
リムがETRTOに適合していない製品だと、
タイヤに何が起こるか責任は持てません。
私たちのラボで計測したら、
有名ブランドの中にETRTOを無視した
メーカーがありました。
でも、そういうリムでも
空気は入って、タイヤが膨らむんです。
しかし、安全とは言い切れません。

ーー
基準とするリムってないんですか。

ジョエル
形状に関して、メーカーのエンジニアとは
連絡を取り合います。
勝手に想像した理想の形状の
リムを作っているメーカーも、
マーケティングのために
勝手なことをやるメーカーもあります。
快適性が増すとか、独自の理論を掲げますが、ユーザーにとって大事なのは、
ETRTOの数値通りに作られていることです。

ーー
どういう危険がありますか。

ジョエル
ラボで破裂テストを行なうと
リムから外れてしまうこともあります。
で、使っているリムを調べると、
はずれて当然だという製品もあります。

ーー
えええ。大問題じゃないですか。

ジョエル
チューブレスタイプでは、
タイヤとリムの組み合わせが大事です。
何か問題が起きたときに、
ほとんどの人はタイヤが問題だと考えます。
リムが悪いとは思わないのです。
原因を調べると、いつも同じブランドが問題を起こします。それは規格に従っていないからなんです。

ーー
ユーザーはメーカーを信じているので、
判断するのが難しいですね。

ジョエル
そうですね。事実として、
タイヤとリムには相性があります。
たとえばリムの内側の幅も、
近年で広くなりましたよね。
すると、これもタイヤに影響がでます。

ーー
どんな風に。

ジョエル
リムの銘柄、内幅、ライダーの体重……ほかにも多くのパラメーターがあって、これがオススメとは言えないんです。
私たちが推奨している空気圧は、
それに従えというモノではないのです。
それぞれのライダーが
自分の最適解を見つけ出すしかないです。

ーー
快適性が重要というのは分かるんですけど、
判断基準というか、
なにをもってして快適とするんでしょうか。

ジョエル
単純なルールがあればいいんですけど、
ひとつの基準では決められません。
しなやかなフレームで、
低めの空気圧を好む人もいれば、
その反対の人もいます。
ただ、空気圧を低くすると
快適性が高くなるという人は多いですね。

ーー
それが一般的ですよね。

ジョエル
もう1つ、タイヤ幅を広くするのも
快適性向上に役立ちます。
現在、タイヤの主力サイズは
28㎜になりつつあります。
レースでは25㎜が多いですが、
28㎜にしても、転がり抵抗は大きく変わらないんです。でも、快適性は大きく違う。
それ故、28㎜が次世代のスタンダードサイズとして期待されています。

ーー
レース用も28㎜になりますか?

ジョエル
25㎜と28㎜の違いについて、
様々な角度から試験をしてみました。
それこそサーキットを借りて、
いろいろなシチュエーションを作り出し、
それぞれのタイムを計測しました。
そして、常に28㎜のほうが
いい成績を収めました。

ーー
セッティングは一緒ですか?

ジョエル
タイヤ幅を変えれば、自ずとベストセッティングも変わります。
空気圧次第ではタイヤの感触が柔らかくもなるし、転がり抵抗が小さくなったとも感じられます。
ただ、それぞれのタイヤ幅でベストを尽くした結果として、常に28㎜がいい成績を残したのです。

つづく

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