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初心者こそ、ビンディングペダルを使ってみよう

みなさん、はじめまして。私はLOOKのエクスポートマネージャーをしているパスカル・ナヴァッロです。今回は初心者が抱きがちな先入観で間違っていることや、ベテランの人でも誤解していることについてお答えします。

Q1:初めてビンディングペダルを買う人にアドバイスはありますか?

パスカル:
まず、あなたが不安を感じているなら、その心配はありません。サイクリストがビンディングペダルを使うのは、安全かつ多くのメリットがあるからです。まずは、その効果について話をしましょう。

足がペダルの上で動いてしまうと、踏み込んだ力が無駄になってしまうことがあります。ビンディングペダルは足を固定するのではなく、不必要な無駄な動きを防いで、脚力を効率的に駆動力にすることができる。

固定するのではない?
そうです。固定できるからビンディングペダルが発展したり浸透したのではなく、むしろ意のままに外せるから普及したのです。

自転車の歴史を紐(ひも)解くと、足の無駄な動きがなくなると効率的に走れるというのは、自転車で競争するようになって、割とすぐに気がついたようです。20世紀初頭には足が前後に動くのを安定させるトゥークリップと、横方向の動きを止めるストラップが開発されて、足を固定していました。

このシステムはペダルの金属プレートを凸に、シューズ側のプラスチック製プレートの溝を凹にした凹凸ではめていました。そのため、前後には全く動かなかったのです。ペダルのプレードにそって、真横にはスライドしましたが、その動きも抑えるために革製のストラップで縛っていました。

締めるときも緩めるときも手でストラップを締めていたので、固定力を調整できたとも言えますが、急に外したくなっても外れなかった。今にしてみれば不便ですが、それでも永らく画期的な進化をしませんでした。

その歴史にLOOKが風穴を開けた。

1980年代にスキーのビンディングシステムからヒントを得て、“PP65”というペダルを発売しました。この製品のメリットはトゥークリップ&ストラップのように、発進&停止時に手を使うことなく脱着が可能でした。安定した固定力があり、しかもペダリングの効率性を一切失うことなく、安全性と快適性を両立したのです。

現在のビンディングペダルの元祖となったPP65

1985年、偉大なるチャンピオンのB・イノー選手に製品を供給すると、彼とともにPP65はツール・ド・フランスでデビューウインを達成し、大きな話題となりました。そして、改良を重ねて、ビンディングペダルはペダルシステムの主流となっています。

ビンディングペダルが主流になった理由は2つ。容易に足とペダルが脱着でき、固定された感触がしっかりとライダーにフィードバックされることです。これはプロやアマを問わずに大切な要素であり、初心者の方にも知ってほしいビンディングペダルの特長です。

製品選びについてアドバイスするなら……同じ力でペダリングするなら、接触面が広い方が力の伝達がスムーズで快適です。

Q2:初心者でも最高級品を使うべき?

パスカル
そうですね、スポーツ用品の最高級モデルには、ビギナーには適さない製品もあれば、ビギナーこそ使った方がいい製品があります。

LOOKの製品は、どのモデルもビギナーからトップライダーまで、全て問題なく使っていただけます。初心者向けとしてコストを抑えたクラシック3というモデルを用意していますが、価格差は機能上の違いというよりも、贅沢な素材と最高レベルの技術を投入しているかの違いです。

製品を選ぶときはステップイン&アウト時のトルクに着目してください。高価なモデルはスプリングレートの高いバネを標準仕様としています。これはプロライダーが固定力の高い製品を好むからですが、いずれも交換が可能です。

では上級は固定力が高いのかと言うと、そうではありません。上級者でも固定力の弱いスプリングを好む人も多いので、スプリングは8Nm(ニュートンメーター)12Nm、16Nmの3種類を用意しています。街中を走ることが多い人はレートが低めの方が、ステップイン&アウトがしやすいでしょう。好みに合わせてカスタマイズできるので、違う種類のバネも試してほしいです。

Q3:ビンディングペダルを導入すべきタイミングはありますか?

パスカル
早い方がいいでしょう。初心者でも扱いやすいので、使うのを遅らせる理由はありません。高価なバイクをフラットペダルで乗られている方がいるのは、日本だけでなく、アジアの国々で見られる傾向です。

初心者に必要なのは、経験よりも最適な環境です。当然ですが、クルマが多く、信号だらけの街は適していません。サイクリングロードや人のいない広場などがいいでしょう。室内トレーナーでステップイン&アウト動きをマスターするのも、いいトレーニングになります。

Q4:LOOKのアドバンテージはなんでしょうか?

パスカル
まず、他社のことに言及するのは、私の主義に反します。LOOKの製品はシマノとよく比較されますが、どちらも悪くない製品です。

アドバンテージというかは分かりませんが、約40年、LOOKはフランスの同じ場所で、ずっと製品を作り続けてきました。これは誇るべきことだと自負しています。

私たちにはスキーのビンディングを作っていたDNAがあり、スキー板にブーツを接続する技術を自転車に応用しました。振り返ってみれば、それはアドバンテージだったのかもしれませんね。

もし、自転車部門のいずれかのビジネスを捨てなければならないとしたら、フレーム製造の方だと思います。ペダルこそ我々のコアであり、失うことは考えられません。

ペダルの生産工程は非常に繊細さを求められるため、豊富な経験を有する職人たちが必要で、彼らは私たちの大きな財産です。

興味のない人には同じように見えるペダルでも、私たちサイクリストは大きな違いを見つけ出します。同じ工場で同じ職人が作っていても、工程や素材の見直しによってパフォーマンスが向上することもあります。それだけ繊細なパーツでもあるのです。

サイクリストはわずかなフィーリングの違いを感じ取って、製品やブランドの評価を下します。1985年に私たちがPP65を発表して以来、数多くのライバル製品が誕生しましたが、ずっと作り続けているメーカーは多くありません。弛(たゆ)まぬ努力を続けてきた歴史が、現在のLOOKの評価だと思います。

Q5:理想のビンディングペダルとは?

パスカル
正しい場所に、自動的にすっと足がセットされる。そんなペダルがあったら、それは理想の形のひとつだと思います。それがどんな技術によって可能になるか、今は分からないですけどね。同様に外すときは、ライダーのレベルに関係なく、自然と外れるのがいいでしょう。


Q6:ペダルメーカーが少ないのは、どうしてですか。

パスカル
安価で販売されているペダルは割と簡単に作れますが、高級ペダルは同じようにいきません。LOOKの工場を訪れた人は、皆さん、工程の複雑さに驚かれます。それゆえ、高級なペダルの製造販売は利益性が必ずしも高くありません。それもライバルが少ない原因かもしれませんね。


6年振りのモデルチェンジで4世代目となったKEO

Q7:価格の違いは素材と重量だけ?

パスカル 
優れた製品を作るために、様々なファクターが存在します。形状や精度もそうですが、素材の選択は想像以上に難易度の高く、最適な素材を調達するのは容易いことではありません。

例えばペダルシャフトの素材にしても、それを供給してくれるメーカーと、長い時間をかけて改良し続けることで手にしたものです。プロ選手や多くのサイクリストからのフィードバックを元に最適解を探しました。

Keoがデビューしたのは2011年、今年発売したモデルで4世代目。少しずつ改良し、熟成させてきた結果です。大して変わらないようにも見えますが、小さな違いでも乗ると、大きな違いを感じます。

強度や硬度、剛性なども重要ですが、スペックには表記しにくい耐久性や加工性といった性能も、素材を選ぶ上では重要です。安全性よりもプライオリティの高い性能はないですが、細部には長く作っているメーカーの強みがあります。

また、できるだけ公差を小さくしています。当たり前のことですが、その当たり前のレベルを上げるのは簡単ではありません。

Q8:パワーメーター付きペダルのメリットとは?

パスカル:
まず、自転車を何台も持っている人であれば、1ペアのペダルを交換することでコストを大きくカットできます。クランク長を変えるにしても、最小限の出費で済みます。これはペダル型パワーメーターの大きな優位性でしょう。

ただ簡単に作れないのも事実です。我々も何度となくパワーメーター付きペダルの開発に着手してきました。ポラールやSRMと共同開発を進めたのですが、満足する製品にはなりませんでした。そこで今回発売する製品は100%自社開発にしました。

エレクトロニクス部分はノウハウがなかったので、専門家をスタッフに加えて開発をしました。ボディーのデザインをそのままに、測定ユニットを作るのは難関でしたが、LOOKらしい製品に仕上がったと思います。

Q9:ペダル型パワーメーターは落車が心配です……
パスカル:
ダメージは設計段階で考慮していますし、保証プログラムもついています。発売したばかりの製品なので、実績はこれから築き上げていくしかありません。ただ、ペダルのスペシャリストとして自信を持ってリリースできる製品ができたのも事実です。

この後、我々の技術スタッフのインタビューも予定されていますから、細かな話は彼らに任せましょう。(続く)